伝えることの難しさ – 吉田 晋

みなさんこんにちは。

最近は情報化社会で便利になりましたね。

便利…? ほんまですか?

例えば、こんな経験をよくします。

私は、激しい雨が降ってきそうになると知らせてくれる、スマホの無料アプリを利用しています。そのアプリでは、例えば「和歌山市に雨雲が近づいています」のようなお知らせが届きます。

でもそんなとき十中八九、雨は降りません。

「またガセネタか」と、ほとんどオオカミ少年のような状態です。

しかし、これはガセネタではありません。

詳しく調べてみると、上記のような情報が届いたとき、「和歌山市のどこか」では激しい雨が降っています。それがたまたま自分のいるところではない、というだけのことです。当該のアプリには、さらに詳しい情報を得るためのリンクが付いており、そこをたどっていくと、和歌山市のどこで雨が予想されるかわかるようになっています。その過程をサボってしまったがために、勝手にガセネタと批判しているだけのことです。ごめんなさい。濡れ衣ですね。

では、こんな情報はいかがでしょう?

「和歌山市の二番丁、三番丁、四番丁、五番丁、屋形町、和歌町、北細工丁、南細工丁で13:52から14:27にかけて激しい雨が予想されます。雨量は35.8mm/h~41.5mm/hと予想されます。傘は折りたたみのものではなく、半径58.4cm以上の大きめの傘をおすすめします。外に干された洗濯物は13:47までに取り入れることをおすすめします…」

相当詳しいですね(数字は適当です)。でも、「そんな情報いらんわ!」って声が聞こえてきそうです。

我々教師は情報を伝える仕事をしていますので、どうすればうまく伝わるかを日々考えています。そこで、詳しい情報を伝えれば詳しい情報が伝わる、という考え方は幻だということに注意しなければいけません。上記の例(ちょっと極端すぎますが)を見ればわかるように、度を越して詳しすぎる情報は、受け取る側の人の脳が拒否してしまいます。

 

物理学に「不確定性原理」というものがありますが、これは情報の不確定性原理とも呼べる(私が勝手に呼んでいる)もので、

* 情報が少ないと、相手はよく理解してくれるが、そもそも伝わる情報量が少ない

* 情報が多いと、相手が拒否してしまい、結局伝わらない

という性質があります。伝える情報量と伝わる情報量にはトレードオフの関係があり、両立しないのです。伝えるって難しいですね。

どうすれば的確に情報を伝えることができるか。

難しい問題なので、私は正解を知りませんが、私なりに気をつけていることがいくつかあります(いつもその通りにできているわけではありませんが)。

* 一つは、順番を守るということです。まず最初に何を言いたいのか大まかなビジョンを示す。その後で詳細を述べる。新聞の記事ってそうなっていますよね。読者は最初に見出しを読んだ上で、興味があればその詳細を読む。この順番を間違えると何を言いたいのかさっぱりわからなくなってしまいますので、とっても重要です。

* もう一つは言いたいことを絞る。一回の発言であれもこれもと、内容を盛り込まない。言いたいことが複数あるときは、機会を分ける。その代わりにどうしても伝えたい大事な内容は繰り返す。

* 詳細は文字で伝える。ポイントは口頭で伝える。

* 場合によっては、一番大事なことをあえて言わない、という手法を用いることもあります。あえて言わずに、聞き手が質問してくることを待ちます(質問を誘発するような誘導を行います)。質問されて、それに答える形で大事なことを言う。聞き手の「知りたい」という心理を刺激するわけです。そのことによってより的確に伝えることが出来ます。情報が伝わらない原因は、聞き手の脳が拒否することにあります。逆に言うと聞き手の脳に、「知りたい」と思わせれば、うまく伝わるはずです。

他にもしいい方法があれば教えて下さい。解決することのない永遠のテーマだと思います。

コンピュータは人間が太刀打ち出来ないほどのたくさんの情報を世に送り出しますが、残念ながらほとんどはうまく伝わりません。それをうまく伝えていくのは人間にしか出来ないことなので、情報をうまく伝えられる人は、情報化社会を生き残っていけると考えています。