生徒は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の x を除かなければならぬと決意した。生徒には数学がわからぬ。生徒は、日本の中学生である。九九を習い、四則計算を学び修めて来た。けれども x に対しては、人一倍に敏感であった。
新学期が始まり、初顔合わせのクラスでの1シーン。
私「数学嫌いな人―?」
生徒(多数)「はーい」
私「ですよねー」
※以下は真面目な数学者ではない筆者の雑記です。数学的に誤りが含まれている可能性があります。気になる部分があれば見逃してご自身の脳内で訂正をお願いします。
さて、数学が嫌いな人の半分は x が現れてからではないでしょうか。
問) x = 1 のとき x + 3 = ?
最初から 1 + 3 = ? と書いてよ!
x で表すことには抽象化という大事な概念が云々、とありますがよくわからないですよね。わかば祭の模擬店準備をする中で良い例が出てきたので紹介します。
問) 設備費20000円、原価 80 円のものをいくらでいくつ売れば良い?
<小学生の場合>
100 円で 500 個売れば収入は 100 × 500 = 50000 円、支出は 80 × 500 + 20000 = 60000 円で 10000 円の損。
100 円で 700 個売れば収入は 100 × 700 = 70000 円、支出は 80 × 700 + 20000 = 76000 円で 6000 円の損。
150 円で 500 個売れば収入は 150 × 500 = 75000 円、支出は 80 × 500 + 20000 = 60000 円で 15000 円の利益。
適当に色々な数を当てはめて、当てはめるたびに計算しないと。
これは・・・面倒くさい!
<訓練された大学受験生(理系)>
売る値段を x、売る個数を y とすれば収入は xy 円、支出は 80 y + 20000 円。
収入と支出が釣り合うときを考えると、xy = 80 y + 20000
売る値段が原価より高いのは自明だから x > 80 として y = 20000 / ( x – 80 )
これを横軸を値段 x、縦軸を個数 y でグラフにすると
緑の曲線より上にあれば利益が出る。
赤矢印を見れば、値段xが100なら個数yは1000以上で利益発生。
青矢印を見れば、値段xが150なら個数yは286以上で利益発生。
色々な値段と個数の組み合わせの結果が、見た目でわかる!
図示することで様々なシチュエーションの結果が一目でわかるのが、文字 x を用いて考えるメリットの一つです。
見た目だけで判断できるなんて、楽でしょう?
だから、x を嫌わないであげてください!
x を使ってあげてください!!
x は悪くない!!!
x「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの扱いに気づいたのだ。抽象化とは、決して数学者のみが扱うわけのわからぬものではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、そなたの知識の仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、x 万歳。」
ひとりの少女が、数学の参考書を生徒に捧げた。生徒は、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「生徒、君は、x を仲間にしたじゃないか。早くその参考書を読むがいい。この可愛い娘さんは、グラフの描き方を知らずに x と仲良くしているのが、たまらなく口惜しいのだ。」
生徒は、ひどく赤面した。