不完全さを愛したら? imaizumi

中学2年の授業で比較級・最上級を勉強しています。先週の授業では taller, tallest のように、-er, -est を語尾に追加するパターンを扱い、今週は more, most を前につけるパターンを導入しました。こんな感じで、比較級・最上級の作り方はいくつかあるんですよね。なんでこんなことになったのか、考えてみましょう。高校生も、発見があるかも!?

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【① -er, -est の語尾変化による】
これは、1000年以上前から存在した、英語本来の比較級・最上級の作り方です。昔の英語ではすべての単語をこの語尾変化のパターンで比較級・最上級にしていました。現代英語でも、日常的によく使う単語は、慣習上このパターンになっています。古いゲルマン語の姿を今に伝えるドイツ語では、今でもすべての形容詞を(どんなに長い単語でも!)この方法で比較級・最上級にします。

【② more, most をつける】
この変化のパターンは、中世以降、フランス語の影響で広がっていきました。現代フランス語では、ほとんどすべての形容詞において、このように前に単語を付け加えて比較級・最上級をつくります。そのため、英語の形容詞のうち、フランス語・ラテン語の香りがするような長い単語はこのパターンになっていきました。

とは言ってもこの形が確立するのは近代以降です。シェイクスピアの英語にも more happier のような、今では誤りとされる用法が見られたりします。(みんなはやっちゃだめよ。)ちなみに、現代英語で、この「二重比較」が許される単語は less という比較級から作られた lesser という単語のみです。

【③ 完全不規則】
good-better-best のようなパターンは「補充法」(suppletion) という造語法です。ここでは、本来別の単語から比較級・最上級を借りてきました。だから見た目がまったく異なるのです。

他の単語から変化形を借りてくる変化形で言うと、go の過去形 went や、one の序数 first などもこの「補充法」の例です。いずれも元の形から派生した訳ではないのでこれだけ形が違うのです。

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さてさて、中学生にとっては、ここからが大変なところです。英語はこれだけいろんな比較級・最上級の作り方があるのがややこしいですよね。学習者にとっては迷惑な話です。語変化のパターンについて、都合の良さそうな覚え方はいくつかあるのですが、そこからこぼれ落ちる例外もたくさんあるのです。

ラテン語由来の real「本物の」や common「一般的な」は(見た目は短いけど)more, most の②パターンで変化させるのが優勢です。そうかと思うと、ラテン語由来でも cute「かわいい」は①のパターンで cuter, cutest が一般的です。happy は①パターンで happier ですが、unhappy は unhappiermore unhappy も、どちらも同じぐらいの割合で観察されるようです。

いろんな言語の特徴が混ざってしまった英語を見ると、言葉とはそもそも不完全であり、それを使う人間というのも不完全な存在であるということを思わずにはいられません。逆に言うと、言語学習の第一歩は、その不完全さを愛することなのかもしれませんねえ。

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