南 正人

最近、歯医者に通っている。
ずいぶん久しぶりに行ってみて、以前から疑問に思っていた問題がまた再燃した。
みなさんは、歯医者さんから「はい、では、倒しますね」と言われ、あの椅子をほぼ寝ているくらいの状態にまで倒されたとき、いったい目はどうしているのだろうか。
僕は、開けている。確かに、目をつむっていないと、時々治療中の歯医者さんと目が合ってしまって、とっても気まずい気分になったり、ライトが目に入って、すごく眩しい思いをすることがある。しかし、それでも僕は目を開けている。もちろん、何かを見たいわけではない。だから、視線の置き所はとても難しく、お医者さんの額の生え際とか、ライトを支えているアームの留め金を凝視し続けているのだけれど、なぜ、そこまでして目を開けているのかというと、治療中に目を閉じることで、「今は痛みはありませんが、その治療を続けると、たぶん数秒後にはとても痛い思いをすることになるような予感があります」ということを伝えたいからだ。しかも僕はその目のつむり方で、様々なものをお医者さんに伝えているつもりなのだ。
たとえば、「ゆっくりそっと」で「今はまったく大丈夫ですが、きっとそろそろ来ます」であったり、「早く強く」で「痛みの、濃厚な気配を感じます。絶対に来ます」であったり……。
それらが、果たして伝わっているかどうかはよくわからない。本当に痛みがやって来たときは、体がビクンと反応し、お医者さんも「あっ、今の痛かったですね、すみません」と言ってくれるのだけれど、その前段階にある「僕のまばたきによる信号」は受け取ってくれているのかどうか……。
それでも、僕は椅子を倒された段階から目を閉じてしまって、「まばたきによる信号」の送信を放棄するわけにはいかないのである。
みなさんは、どうしているのでしょうか。
それにしても、歯医者さんには行かないにこしたことはないわけで、みなさん、歯は大切にしましょうね。