南 正人

 最近の女子高生は、一人称に「わい」を使うというのをテレビで見て、「おおっ、これで僕が常々その消滅を憂えていた和歌山弁の『わえ』も復活するか」と思ったのだけれど、どうもそうではないらしい。
 女子高生の「わい」使用の最も大きな理由は、ネット(2ch等)上での使用にあるらしいが、それにしても、僕はそこには「中性化」と「方言」というキーワードが潜んでいるように感じる。
 中性化については、ジェンダーフリーの時代にあって、当然なのかもしれない。今や会話を文章で見ただけでは、男性の発言か女性の台詞かまったく区別がつかない。女性言葉の「~かしら」が絶滅してもう久しいが、「~なの」「~だわ」「~わよ」も言わない。先生だって、男の子を「~君」と言わなくなったらしい(全員「さん」らしい)し、女の子は男子を呼び捨てにしている。確かにジェンダーフリーだけど……。
 方言の使用についても、今に始まったことではないけれど(横浜弁の「~じゃん」など)、最近は頻度が上がっているように思う(「~だべ」「~っしょ」など)。ここで注意すべきは、決して方言が「復活」したわけではないということだ。なぜなら、それは、発祥地とは別の地域の人たちによって使用されているからだ。つまり、女子高生達は、おばあちゃんが使っている「わい」を復活させたわけではない。(だから、僕が子どもの頃に男の子の最もポピュラーな一人称だった「わえ」を和歌山県人が再び使い始めることもない)。この方言への傾斜にも、いろいろ読み取れることがあるのかもしれない。若者たちの、都市生活への閉塞感とかノスタルジーとか未来への絶望感とか、造語力の低下とか……。
 ところで、女子高生の一人称と言えば、本校では圧倒的に自分のファーストネームが多い。それはもしかしたら、「女子校あるある」なのかもしれないけれど、どうにもそれはまずい気がする。だから、僕はいつも「それ、幼稚だから、やめなさい」と言っている。一人称に自分のファーストネームを使うのは、「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と母親から呼ばれている子どもが、自分のことを「お姉ちゃんはねぇ」と言い出すのと同じだ。でも、僕がいくらそう言ってもどうも彼女たちには、響かない。「ちゃんと、使い分けてるもん」と思っているのかもしれない。でも、僕と話をしていて、自分のことをついファーストネームで呼んでしまった生徒を何度も見た。だから、「普段使っていたら、必ずうっかり出てしまう。それがデートの時だったら、どうする。言っておくが、デートで、それ言ったら、男は絶対引くぞ」と脅す。「だいたい主役の女の子が自分のことをファーストネームで呼んでる恋愛ドラマなんて観たことないだろ。想像してみろ、広瀬すずが、デートの時に『すずは、パフェ食べたい』と言っている場面を」と。(まぁ、個人的には広瀬すずから「すずは、パフェ食べたい」と言われたら、僕は喜んでパフェを食べに連れて行くんだけどね)
 いずれにしても、一人称は(二人称もだけれど)、なかなか奥が深くて面白い。