ザ・シンプソンズ  鬼塚寛之

皆さんはアメリカのアニメ「ザ・シンプソンズ」を知っているでしょうか?日本ではなかなか目にすることのないアニメです。ですが、みんな必ずこのキャラクターを知っているはずです。放送されていない日本でさえ、CMなど様々なかたちで私たちの生活に入ってきています。さてこのアニメ、私は子供のころこのアニメが大好きで、近所の衛星放送を契約している父の友人にビデオに保存してもらったものを何度も見ていました。登場人物の(一応主人公の)父親のホーマーは数学・物理の天才なのですが、子どものころ頭に刺さったクレヨンのせいで、普段は普通の冴えないおじさんになっています。ですが何かの拍子に頭のクレヨンがポロリと抜けるとその天才を発揮します。

そのホーマーとかなり個性的な家族がこの物語の主人公です。最近「数学者たちの楽園」という本にこの「ザ・シンプソンズ」のことが大きく紹介されていました。なぜ数学の本にこんな一見こども向けのアニメが出てくるのでしょうか。実は、このテレビ番組のスタッフたちの多くが数学や物理、コンピューター工学をバックグラウンドに持つというというのです。

その本には数学の未だ解決を見ない(数多くの天才たちが挑戦し続けている)問題が紹介されています。例えば、パンケーキ問題と呼ばれている問題です。

パンケーキ問題:あるレストランのシェフはパンケーキの大きさをそろえるのが上手ではなく、お皿の上にパンケーキを乗せていくと大きいものと小さいものがばらばらに積み重なって、運ぶときに不安定になってしまいます。ウエイトレスは上から自由に数個をまとめてパンケーキをひっくり返すことができます。上から順に小さいパンケーキにするには最大何回ひっくり返さなくてはいけないでしょうか? パンケーキの数をn枚とします。

n=1のときは答えは0です。n=2のときは1ですね。n=3まではなんとか頭の中でできるでしょうか。この問題はn=19のときまでしか解かれていないのです。世界中の数学者が30年以上挑戦しているということでした。

さて、このシンプソンズというアニメにも数学の要素がここかしこにちりばめられています。例えば、フェルマーの最終定理という言葉を聞いたことがないでしょうか。 (xのn乗)+(yのn乗)=(zのn乗)

というなんとも単純な方程式にはnが3以上のとき自然数解が存在しないというものです。n=2なら中学生で学習する三平方の定理の式ですね。あるとき、このアニメでホーマーが

という数式を書きました。これにアメリカの数学好き達に強烈な衝撃を与えることになりました。これはまるで存在しないはずの方程式の解であるかのようにみえるからです。そして、コンピューターで確認してみると(関数電卓程度では確認できない程度の)ちょっとしたずれが確認されました。つまり、アニメのスタッフが数学好きの視聴者のために用意したとっておきの手間のかかるジョークだったのです。このほかにも最先端の数学をおちょくった内容が登場するこのアニメ、そんなアニメがサザエさん的な扱いを受けるアメリカという大国。なかなかあなどれんなと思うのです。一度時間あるときにみてください。