南 正人

先日ノーベル賞の発表がありました。日本人が2つの分野で受賞しましたが、毎年騒がれる文学賞は、今年もまた村上春樹氏は逃しました。でもまぁ、村上氏自身は「そんなものどうでもいい」と思っているのではないかと、僕は思うのですが……。
ところで、皆さんは、日本人のノーベル文学賞受賞者を知っていますか。1968年に川端康成、1994年に大江健三郎の2名が受賞しています。
村上氏の場合は、「まずは英語で、文章を作り、それを日本語に訳している」という噂があります(あくまで、噂ですが……)。ただ、確かに村上氏の文章であれば、英訳をしてもそれほど彼の日本語文体の趣を損なわないと思うのですが、今から50年前に受賞した川端康成の『雪国』の場合は、どうでしょうか。
これは1956年(昭和31年)にアメリカの日本学者エドワード・サイデンステッカーが英語に翻訳して“Snow Country”として出版した、『雪国』の冒頭です。
“The train came out of the long border tunnel - and there was the snow country. The night had turned white.”
また、その40年後の1996年には再翻訳され、
“The train came out of the long tunnel into the snow country. The earth lay white under the night sky.”
とあります。
これは、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」を英訳したものですが、皆さんどう感じるでしょう。
僕は、これでよく「ノーベル文学賞」が取れたなぁと思ってしまいます。
そもそも「雪国」と「スノー・カントリー」では、なんだか全然趣が違うように思ってしまいます。「雪国」はあくまで「雪国」であって、決して「スノー・カントリー」なんかではない!……と。
僕は決して「翻訳文学」を揶揄しているわけではないし、“Snow Country”を読んで、「この文学はすごい。ノーベル賞に値する」と思ってくれた選考委員の方々に敬意も払います。
でも、こっそりと「日本語で、日本文学を読めてよかった」とも思ってしまいます。
どうですか? 皆さんも、秋の夜長に、「日本語で、日本文学を読める幸せ」を噛みしめながら、読書をしてみては……。