「ミミズの話」

目もない耳もない。手もなければ足もない。色は黒い。日の当たる所よりも日陰が好きときているから、色ばかりでなくて性格も暗そうだ。ミミズはそんな生き物です。
ドロの上をはいつくばって動き回り、ドロの中にもぐりこみ、ドロを食ってはドロを出す。ミミズはそんな生き物です。  これでは「そんな生き物」が「損な生き物」と響きかねません。
しかし、そんなミミズを四十年という長い年数をかけて研究した人がいます。進化論で有名なあのチャールズ・ダーウィンです。ダーウィンはミミズの観察研究を一八三七年にロンドンの地質学会において「土壌の形成について」という論文の中で発表し、その研究を継続して、ついに『ミミズの作用による肥沃土の形成およびミミズの習性の観察』を出版しました。それが一八八一年のことです。その翌年にダーウィンは七十三歳でその生涯を閉じるのですから、その生涯の半分以上をミミズの観察研究に費やしたことになります。そしてその半生をかけた研究から引き出された結論は次のようなものでした。
「全土を覆うすべての肥沃土は何度もミミズの消化器官を通ってきたのであり、また、これからも何度も通ることになるだろう。」
この結論に対して、これは容易に予測できることですが、ちっぽけなミミズにそんな大きな仕事ができるわけではないという推測から、「ミミズのか弱さ、その小ささから考えて、ミミズがそんなことをやったとは到底考えられない」という反論が出されました。しかし、ダーウィンは「それは単なる先入観から言っているだけで、事実の観察に基づくものではない」と応じて、「私の調査によれば、どんなに少なく見積もっても、一エーカーあたり、一年に約十五トンの土を摂取し、排出している」と述べています。念のために書いておくと、このダーウィンが出した結論は現在でも最先端の内容を持つものとして認められているそうです。
目もない耳もない、手もなければ足もない。
色は黒くて、性格も暗そうな。
ミミズはそんな生き物です。
ドロの上をはいつくばり、ドロの中にもぐりこむ。
ドロを食ってはドロを出す。
ミミズはそんな生き物です。
そんなミミズが自分に与えられた口と消化器官を使ってやりとげる仕事も尊ければ、そんなミミズに注がれたダーウィンのまなざしも尊いものです。
こう書いておいて、『創世記』の一節を結びということにしておきましょうか。

『神はおつくりになったすべてのものをご覧になった。見よ、それは極めて良かった』