一学期中間テストの時期にもかかわらず、すでに夏の訪れを感じさせるような暑さと日差しですね。この時期にも意外と熱中症が多いとのことなので、対策をしっかりと講じつつ夏本番に向けて体を暑さに慣らしていきたいと思います。生徒の皆さんは目の前のテスト対策でそれどころではないかもしれませんが……。
さて、先日個人的に「夏」を感じる場所に訪れてまいりましたので、そのお話をさせていただこうと思います。連休中にずっと行きたかった神奈川県の大磯にお邪魔してきました。目当ては作家・島崎藤村が晩年に住んだ旧宅です。こじんまりとした古い木造建築で、お庭から内部を見学する形の施設でした。
(外観はこんな感じ。)
(内部はこんな感じ。)
施設の方にどちらからいらしたんですか?と聞かれ、和歌山ですと答えますとそんな遠くから?と驚かれました。近くには海もあるそうで、そこを訪れる観光客の方が多いというお話も聞きました。残念ながら時間の都合上海までは行けなかったのですが、和歌山と同じく海が近い場所独特の空気を感じました。
島崎藤村は1943年8月22日にこの大磯の自宅で帰らぬ人となったのですが、その際最期の言葉として「涼しい風だね」と言い残した、というエピソードが残っています。実際訪問した日は天気も良く汗ばむ陽気だったのですが、旧宅の門をくぐると不思議と体感温度が下がり、青々とした木陰を通る「涼しい風」を感じることができました。(お庭にはこの「涼しい風だね」をモチーフにしたオブジェも置かれています。)
JR大磯駅から少し歩いた住宅街の中にあり、駅周辺は観光客でにぎわっていましたが、旧宅周辺はとても静かで、晩年になってこういうところに住むことができる島崎藤村がしみじみうらやましいなと思いました。(大磯に移る前、家族と一緒に暮らすために東京で家探しをする島崎藤村の住宅事情は作品のなかにもたくさん登場します。住宅価格が高騰し続ける現代にも通じる苦悩を感じることができるので、気になった方はぜひ読んでみてください。)
後ほど調べてみたところ、1943年当時の8月の最高気温は平均で30度ちょっとということがわかり、2025年の8月だったら「涼しい風」どころじゃなかったのかも……という気もしました。昔の人が感じた「夏」は現代で言うと5月や6月、9月に感じるもので、現代の7月8月は夏ではない何かになりつつあるのかもしれません。古典でも今の感覚とは違う春夏秋冬の区分けが登場するので、時代によって季節感覚というのは移ろっていくものなのでしょう。皆さんも7月8月ではなく、今のうちに「夏」っぽいことを楽しんでみてはいかがでしょうか。