最近、「チ。―地球の運動について」という漫画を一気読みしました。
名前の通り、地動説に関する内容の物語です。舞台は15世紀ヨーロッパのP国。C教という宗教が権威をもち、C教の教えでは地球が中心で太陽をはじめとする天体が地球の周りをまわっているという天動説が信じられている時代でした。C教の教えに背くものは、異端として火あぶりという処刑を受けてしまう。そんな時代に、当時異端とされていた〈地動説〉に主人公が出会い…というところから物語は始まります。
史実ではなくあくまでフィクションのお話ですが、C教とはキリスト教、P国とはポーランドのことを想定して描かれていると思われます。(教科書などで出てくる地動説を説いたコペルニクスはポーランド出身です)
漫画は完結していますが、10月からNHKでアニメが始まり、現在放送中なのであまり詳しく話過ぎるとネタバレになってしまうのであまり踏み込んだ話はできないのですが…私は漫画を読みながら終始感動しっぱなしでした。(ネタバレしないよう配慮しているつもりですが、もしなっていたらごめんなさい。)
研究しているというだけで死刑になってしまうことが分かっていながら、それでも自らが美しいと感じた真理を追い求める登場人物たちの姿勢に何より心うたれます。特に当時は女性が学問をする、ということが認められなかった時代。それでも学問を追い求めるヨレンタさんという女性の姿、作中の彼女の「迷いの中に倫理がある」という言葉が倫理学専攻だった私にはたまりませんでした。地動説をはじめとする科学革命により、宗教を権威とする時代が終わりをつげます。中世を宗教的世界観の時代、近代を科学的世界観の時代、などと表されることがあります。しかし科学で倫理は語れません。絶対的な神なしに倫理を語る、というのはとても難しいことです。正しい答えなんていうものはない。迷って迷って迷いながら正しさとはなにかを考え続けることが今を生きる私たちには求められ、それが倫理なのだと改めて感じました。
真理を探究したいという思いはいかようにしても止められず、そうした一人ひとりの強い思いがつながり歴史を動かす。いま私たちが当たり前のように考えている色々な考え方はそうした先人たちの思いによって形作られてきたものです。地動説一つとっても、歴史上ではコペルニクス、ケプラー、ガリレオ=ガリレイなどの名が出てきますが、そこに名前を残していない数多くの人々が命をかけてきた結果です。パラダイムシフトはこのようにして起こるのか…とあくまでフィクションながら、とても考えさせられるものがありました。
天動説を守りたい側も〈地動説〉を証明したい側もどちらも神に対する信仰に基づいているからこそ起こる悲劇の数々が歯がゆくて仕方なくなります。そして、時代が変われば正義と悪が入れ替わる。真理とは何か、信仰とは何か、正義とは何か…いろいろなことを考えさせられる物語でした。現在アニメも放送中なので、是非興味のある方は見てみてください。