「ともぐい」           池内理香

第170回(2023年下半期)直木賞を受賞した河崎秋子『ともぐい』を読みました。明治時代の白糠町を舞台に、主人公の熊爪(くまづめ)が、人間よりも獣に近い感覚でクマや鹿を獲り、山の中で生きていく物語です。北海道の酪農家に生まれ、自身も十数年間、羊飼いとして生活し、鹿の解体も手伝ってきたというだけに、冒頭の熊爪が鹿を仕留め、その場で獲物を解体する臨場感には圧倒されました。また、熊爪が、熊同士の争いに巻き込まれたり、山の王者の熊と命がけで対決する重厚なシーンなど、過酷な環境で生きる人間の姿が描かれています。

作者の川崎さんは、「自然は恐ろしいもの、人の命を奪うものだということを忘れてはいけない」と強調する一方で「クマは決して怪物ではなく、命を大事にしてほしいという視点も無視できない」とある取材で語っています。

理解し合えない存在同士が向かい合うとき、人はどう生きるのかという問いや、自然との共存、生きるということは他の命を食べるという『ともぐい』を繰り返すことでもあるのだということを考える機会がもてた作品でした。迫力があり、骨太で圧倒される本です。読みたい人は、図書室にありますので、手に取ってみてください。