旅 片岡ちか

「…そぞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神の招きにあひて、取るもの手につかず、股引の破れをつづり、笠の緒付け替へて、三里に灸を据うるより、松島の月まづ心にかかりて….」
(松尾芭蕉『奥の細道』)

この夏休み、「青春18切符」を使って6泊7日で四国を横断し、九州を経由して山陽から帰ってくるという旅をした。「青春18切符」というのはJRから発行されている5日間電車乗り放題・途中下車可能で11850円、1日あたり2370円という激安切符である。しかし、新幹線と特急は乗ることができず、普通か快速のみ乗ることができるというものである。
阿波踊り真っ最中の徳島を始発で出発し、高知、愛媛へと至り(ここまで約11時間)、愛媛からフェリーで大分・別府へ渡って、別府泊。翌日はバスで湯布院へと抜け、久大本線で久留米へ。その後博多で3泊したのち、広島で平和に思いをめぐらし、宮島観光、本場の広島風お好み焼きに舌鼓をうち、10時間電車に揺られて帰宅という旅程であった。
目的地を決めて飛行機でパッと行って楽しむという目的重視の旅の仕方もあるが、私の場合は「道程重視」なのである。目的地に行ってしまえば、たどりついたらもう終わりなのである。目的地に向かうまでの山や川、集落や町を眺めるのが好きなのだ。特に普通列車は町の人々の足なので、電車に乗っているとその土地の方言が聴こえてくる。そしてその方言は駅を経るにつれ少しずつ変化していく。ぼんやり車窓の風景を眺めたり、車内の人のおしゃべりに耳を傾けたり、時刻表を眺めたりしていれば、3時間ぐらいはあっという間に過ぎていく…(続く)